「からくり」と聞くと、モータやゼンマイの回転から紡ぎ出される複雑な動きを思い浮かべる方も多いと思います。実際そのようなからくりは見ているだけで楽しくなります。
しかし今どきの自動化設備でそのようなからくりを使うことは滅多にありません。なぜかと言えば、シーケンサ(設備用コンピュータ)を使った方が手っ取り早いからです。
シーケンサがなかった時代には、からくりを複数の動作をモータ1個で行うことに意味がありましたが、シーケンサが登場してからは、各動作のためのアクチュエータ(エアシリンダやモータ等)をそれぞれ設け、シーケンサでそれらの動作順を制御した方が、設計も易しいし、トータルコストも安上がりです。
実際20年ほど前、社内イベント用に複雑なからくりを設計したことがありますが、必要な部品点数の多さにびっくりしました。
それではもうからくりはまったく使わないかというと、そうではありません。主に次のような、ふたつのケースで使われます。
ひとつは、アクチュエータのレイアウトに制約がある場合です。
例えばエアシリンダを使う場合、ベタに考えれば、エアシリンダの動作方向と仕事をさせたい部品の動作方向は同じですが、スペースの制約上、そのようなユニットを設備内にレイアウトできないことがあります。そのようなときは、カムやリンクを使って、 エアシリンダの動作方向と仕事をさせたい部品の動作方向を直交させたり、逆方向にしたりします。
もうひとつのケースは、複数の動作を高速で行いたい場合です。
先ほど、複数の動作はシーケンサを使った方が手っ取り早いと書きましたが、動作ユニットを高速で動かそうとすると追いつかない場合があります。どういうことかというと、アクチュエータの動作確認にそれなりの時間がかかってしまうからです。
例えばシーケンサがエアシリンダに前進司令を出した後、必ずエアシリンダの前進端オートスイッチの状態を確認します。同様に後退司令を出したあと後退端を確認します。これらの確認に必要な時間を合計するとゼロコンマ数秒かかります。マシンタイムに余裕があればこれぐらいどうということはありませんが、マシンタイムが2.5秒未満になると、相対的に苦しくなります。
その点からくりの場合は、動作順序があらかじめ機構で決められているので、各動作の確認は不要です。
さらに最近は、この入力軸にサーボモータを取り付けるケースも増えています。以前はもっぱらインダクションモータ(最も一般的なモータ)を使っていましたが、サーボモータの価格がこなれてきたことと、サーボモータの制御技術の向上で、からくり機構を自由自在に動かせる(例えばわざと途中で止めることができる)ようになりました。当然入力軸の原点確認センサも不要です。回転速度もインダクションモータより速いので、超高速でからくりを動かすことができます(加速度限界の検証は別途必要)。
このように、自動化設備で昔のような派手なからくりは見かけなくなりましたが、カム、リンク、歯車といった伝達パーツをさり気なく使った地味なからくりや、サーボモータと組み合わせた新たなタイプのからくりは、今でもしっかり使われています。