もう30年ぐらい前のことだったと思います。まだ機械設計者として駆け出しだった頃、自分が設計したスピンドルユニットが発熱し、筐体入口のゴム製シールが劣化して防塵機能が効かなくなるという不具合に見舞われました。
当時はなぜ発熱するのか、そのメカニズムすらわかりませんでした。知見を得るため、付き合いのある商社経由でその道のプロフェッショナルに来ていただき、教えを請うことにしました。来られたのは年配の紳士で、永くベアリングメーカーに勤めていた方です。ベアリングを精密に組み込んだスピンドルのプロフェッショナルでした。
その方に私が設計した図面を見ていただき、使っている回転数を伝えたところ、「発熱する」とこちらが言う前に「あ~、この場合発熱しますね。筐体表面温度は**℃ぐらいじゃないですか?」と指摘されました。まさに実測温度とドンピシャです。
なぜ発熱するのか?
その方によると、筐体入口のゴム製シールと回転軸との摩擦による発熱とのことでした。その方の頭の中には、回転軸の周速と発熱温度の関係がちゃんとデータとしてあり、その結果何℃になるか、たちどころに分かるのです。
正直感動しました。これこそプロフェッショナルです。「ゴム製シールを使うと発熱する」という定性的な見解が言えるのを普通のプロとすると、「**℃になる」という定量的な見解が言えるのをプロフェッショナルと呼ぶべきです。
ちなみにその方からいただいたスピンドルの改善案は、ゴム製シールを止め、「エアギャップ」という手法で防塵を図るというものでした。詳しい説明は省きますが、少し入り組んだ構造で回転部と非回転部の間にコンマ数ミリという隙間(=エアギャップ)を設けると、高速回転状態では外からの粉塵が内部に侵入しません。こんな設計があるのもこのときはじめて知りました。
自分もいつかはこういうプロフェッショナルになりたいと、このとき心の底から思いました。