私自身若い頃勘違いしていたのですが、ただ単に図面が描けても設計者とは言えません。製図は設計者に必要なスキルのごく一部です。それよりも大事なのは、きちんと計算ができて、その理屈が語れることです。
見様見真似でも製図のスキルは身につき、2,3年ぐらいでアクチュエータの付いたガイド機構の図面は描けます。製図ミスがなければその図面を元にして製作したものができあがります。しかしそこに計算や理屈がないと、トラブルが発生したとき、なぜダメだったかが理解できません。最悪、的外れの改善が続きます。
どういう理屈でこの機構を選んだのか? どういう計算でこのサイズのアクチュエータを選んだのか? どういう計算でこのサイズの板厚やシャフト径にしたのか?
これらがちゃんと説明できれば、真の設計者と言えます。もちろん毎回この計算をするわけではありませんが、何回か計算してみると大体の勘所が分かってきます。
設計の仕事をし始めて数年経ったころ、こんなことがありました。とりあえずの図面が描けるようになって一人前になったと勘違いしていたころのことです。社内に改善チームのような組織があり、その中に、図面も描けて、その上で組立や調整、現場工事までできるスーパーマンのような人を見つけました。その人は元々「仕上げ」と呼ばれる組み立て&調整マン出身で、若い頃からの訓練の積み重ねでそのスキルを身に着けました。さらにある時期、見様見真似ながら図面も描けるようになり、スーパーマンになりました。器用で頭の良い方だと感心しました。
一方私は図面しか描けません。キャリアコースが違うので、この先仕上げのスキルを見つける機会もありません。自分の存在価値に自信が持てなくなってしまいました。
そんなときある設計の先輩に教えてもらったのが冒頭の考え方です。たしかにそのスーパーマンさん、図面は描けるものの、計算や理屈はありませんでした。これまでの経験と勘だけでやってらっしゃいました(それでも勘の良い方だったので概ねうまく改善できていました)。
しかしその後計算や理屈のスキルを見つけた私は、改善の成功率や新規機構の完成度が格段に上がりました。仕上げの人たちからも信頼を得られるようになりました。そのころになってやっと設計者として自信が持てるようになりました。
やはり計算や理屈は大事です。私にそのアドバイスをくれた先輩には今でも深く感謝しています。